会報『ブラジル特報』 2009年3月号掲載

                       太田 徹(双日(株)鉄鉱石部担当課長)


 世界でも他に類を見ない約170億トンの推定埋蔵量と高品位を誇るカラジャス鉄鉱山は、パラ州都ベレンから南へ約500kmに位置している。



 カラジャス鉄鉱山、鉱山とマラニョン州都サンルイスとの間を結ぶ延長890kmのカラジャス鉄道、および出荷ターミナルであるポンタ・ダ・マデイラ港、それらの鉄鉱石生産・輸送・船積み一貫事業がヴァーレ社(旧名Cia. Vale do Rio Doce)の北部システムと呼称され、運営されている。 

カラジャス鉄鉱床は、マンガン鉱床を探査していたU.S Steelにより1967年に発見されている。1977年にU.S Steelが撤退した後は、ヴァーレ社が自社100%の事業として開発を継続。その後、日本をはじめとした世界各国の制度金融を通じて総額36億ドルを投じ、日本製鉄各社に依る15年間の長期引取契約の締結などの開発支援を受け、1985年に初出荷を迎えた。

 カラジャス鉄鉱石は、生産される鉄鉱石の量、質ともに、現在の世界の鉄鋼生産に欠くことの出来ない鉄鉱石となっており、世界の鉄鋼業、および鉄鉱石市場に果たしている役割、さらに今後の期待が非常に大きく、人跡未踏の地であったカラジャスの開発に着手した英断は、後世に称えられるべきであろう。

 カラジャス鉄鉱床は、北部(N)山脈と南部(S)山脈に大別されるが、そのうち、現在までに開発されているのは北部山脈の一部の鉱体のみであり、南部山脈は未だ手付かずの状態にある。最初に生産が開始されたN4E鉱体に加え、現在は4か所の鉱体で年間約1億トンの高品位鉄鉱石が生産されている。

  


 生産される鉄鉱石は、一部の鉱石がカラジャス鉄道沿線の製鉄所で消費されるが、殆どが粉鉱石として輸出されている。
 カラジャス鉄鉱山は、当初年間35百万トン体制で生産を開始したが、その後順次設備を拡充し1995年には45百万トン、さらに70百万トン、85百万トンと生産能力を次々に拡充し、2008年に1億トン体制を確立している。その過程で、2002年に年間7百万トンの生産能力の鉄鉱石ペレット工場もサンルイスに立ち上げている。

 カラジャス鉄鉱山では、未開発の南部山脈の開発を含めた生産規模の拡張が引き続き計画されており、それらのプロジェクトが完了すると、年間2億トンの体制となる見通しである。

 カラジャス鉄鉱山の開発は、アマゾン熱帯雨林での事業活動であることから、森林破壊の代表例の如く取り扱われることがあるが、実際には上の衛星写真で見られる様に、プロジェクトで保護された部分のみが自然林を保ち、その周縁では森林が濫伐されている実態がある。今後、南部山脈など未開発地域に着手していくことになるが、引続き希少な自然の保護と調和した形での開発が希求されている。

 余録―筆者は1993年にカラジャス鉱山に企業研修生として派遣され、その際の縁で、現地で挙式。本プロジェクトと浅からぬ縁となった。