会報『ブラジル特報』 2008年7月号掲載

内多
()
国際貿易投資研究所
客員研究員



近年、ブラジルで大規模油田の発見が相次ぎ、産油量の増加ぶりが注目されている。ブラジル石油産業発展の立役者は、ペトロブラス(Petrobras-ブラジル国営石油会社)である。ペトロブラスは国内では石油産業や関連産業の発展に貢献するとともに、ブラジルの対外関係についても重要な役割を果たしている。

経済発展に貢献するペトロブラス

ブラジルの石油輸出入バランスは2006年に初めて輸出超過(原油換算量で輸出1億4,100万バレル、輸入1億3,000万バレル)を記録した。翌07年は再び輸入超過(同輸出1億4,400万バレル、輸入1億4,700万バレル)となった。一方、新油田の発見が相次いだことにより、ブラジルは石油供給力を確実に高めている。ペトロブラスは08年からの石油生産量は需要量を上回り、ブラジルでは石油自給が一層確実になると見通している(別表)。

    ブラジル国内の石油生産量と需要量の見通し(単位 
b/d)
 

08年

09年

10年

11年

12年

15年

生産量

2050

2191

2296

2374

2421

2812

需要量

1922

1968

2039

2101

2170

2337

        (注) 石油にはコンデンセートと液化天然ガスを含む。単位は原油換算量の千バレル。
          
 (出所) Petrobras Strategic Plan 2008-2012 Business Plan

 ブラジルでは現在、民間企業の石油産業参入が認められている。石油鉱区の採掘権を管轄しているANP(石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁)は1998年、ブラジル国内における鉱区の93%をペトロブラス以外の内外企業に開放する政策を導入した。資金が不足しているペトロブラスが単独でブラジルが必要とする石油開発を、すべて実施することは不可能である状況を打開するために、取られた政策である。しかし、現状はペトロブラスが圧倒的な優位を占めている。同国の炭化水素資源の確認埋蔵量(原油と天然ガス、コンデンセートの合計)は原油に換算して139億2,000万バレル(2007年末現在)であるが、これはすべてペトロブラスが保有している。ブラジル国内の重要な鉱区については依然としてペトロブラスが確保しているが、近年は外資系企業との合弁開発も増えている。06年末現在のデータによれば、石油採掘鉱区面積30万4,600平方kmの約半分(15万2,800平方km)が、ペトロブラスと外資による共同開発となっている。ペトロブラスは外資の資金を活用することによって、採掘事業の拡大を可能にしている。一方、外資系企業はブラジルの資源状況を把握しているペトロブラスと提携することによって、効率的な油田開発を可能にしている。ブラジル国内の石油開発については、蓄積してきた経験と情報、技術力、資金力などにわたってペトロブラスが依然として他の企業の追随を許さない実力を保持している。
 ペトロブラスは世界の石油企業ランクによれば、保有確認埋蔵量(115億バレル)や石油・ガス生産量(日量229万7,000バレル)、精製能力(日量222万7,000バレル)については第5位の地位を占めている(データはペトロブラスによる)。

産業発展を促すペトロブラスの投資

 石油メジャーであるペトロブラスの投資は、ブラジルの産業に与える影響も大きくなっている。ペトロブラスのビジネスプラン(2008年~12年)によれば、5年間における投資額1,124億ドルのうち、国内投資額が974億ドルを占めている。国内投資額中ブラジルで調達される設備機器が631億ドルを予定している。このような積極的な調達が、ブラジルの資本財産業の発展を促す効果をもたらすことが期待されている。ペトロブラスが必要とする石油開発のための設備や機器などの資本財部門の国産化が遅れているために、輸入に依存している。例えば、今年5月にペトロブラスは12本の掘削リグのチャーター契約を締結した。これらのリグはすべて海外製である。これを含めて、ペトロブラスは2017年までに40本のリグを確保する予定である。リグに加えて、海底油田掘削船や海上プラットフォーム、油送タンカーなどの需要拡大を見越して、これらの国産化が求められている。ペトロブラスは5月に造船業近代化・拡大プログラムに着手した。ブラジルの石油資源は海底に集中しており、07年に採掘された石油の88.5%は海底油田で占められた。このような状況から、石油生産が拡大するにともなって、関連資本財を供給する造船業の発展が望まれる。

 ペトロブラスは強大な原料供給力を背景に、石油化学産業界においてもリーダーシップを発揮している。2007年には資本系列関係が錯綜している民間石油化学企業の株式を買収あるいは売却することによって、業界再編製に着手した。ペトロブラスは出資している4社の株式を民間企業のbraskemに譲渡して、さらに同社への出資比率をそれまでの6.8%から25%に引き上げた。また別の石油化学企業Uniparと合弁企業を設立(ペトロブラスが40%を出資)して、両社の出資先企業をこの合弁企業に吸収した。この合弁企業(社名はQuattor)はブラジルにおけるポリエチレンとポリプロピレンの生産シェアは40%を占める大メーカーである。ペトロブラスは石油化学業界の再編成で主導権を充分発揮して、ブラジルにおける石油産業界の川上から川下部門を広範囲にわたって、支配力を保持している。


ブラジル外交の切り札となるペトロブラス

 ペトロブラスは現在、海外19か国で石油と天然ガスを開発している。これに加えて、石油生産の技術協力を通じて、ブラジルの対外関係強化に貢献している。その対象国も近隣の中南米諸国に加えて、インドや中国、アフリカ等に広がっている。世界的に注目されているペトロブラスの技術が、深海での石油採掘である。近年の技術協力の具体例としては中国とメキシコがあげられる。中国とはルーラ大統領が2004年、訪中した際にペトロブラスは北京に事務所を開設し、中国の石油企業との提携関係強化の協定も締結した。中国はペトロブラスの深海採掘技術への関心が高いと伝えられていた。07年8月にはルーラ大統領のメキシコ訪問に合わせて、国営メキシコ石油会社(PEMEX)と重油開発と石油採掘の技術協力協定を締結した。メキシコでは陸上油田の資源減少により海底油田の開発が一層求められており、ここでもペトロブラスの海底油田開発技術に期待が寄せられている。

 日本の対ブラジル関係にもペトロブラスの存在が、大きくなってきた。ブラジルで日本企業が石油・天然ガスやバイオエタノール分野での活動が広がっているが、ペトロブラスも今年4月、日本で南西石油(本社 沖縄県)を買収した。ペトロブラスは今後、南西石油を日本とアジア地域への進出拠点として活用しようとしている。また、南西石油でブラジルのエタノールを混合した燃料を加工して、日本国内の独立系ガソリンスタンドに供給することも計画している。

 第3国における日本企業とペトロブラスとの提携関係も実現している。米国でペトロブラスは三井物産と、オイルシェールの事業化調査を共同実施することになった(2008年6月10日付三井物産プレス発表による)。同発表によれば、これは石油になる前段階の炭化水素分を多く含む堆積岩を採掘後、熱分解(乾留)することによって石油を得るプロジェクトである。ペトロブラス社はブラジルで30年以上の実績を有する独自のオイルシェール生産技術・ノウハウを有しているという。

 海外から安定的に資源を確保しなければ生存できない日本としても、ブラジル内外で広範囲に事業を展開しているペトロブラスは決して無視できない存在になっている。