会報『ブラジル特報』 2013年9月号掲載
日系企業シリーズ 第26回

                              村田 俊典(ブラジル三菱東京UFJ銀行頭取)


 弊行は旧三菱、旧東京、旧三和および旧東海の4行の流れを汲んでおり、それぞれが旧行時代より当地でビジネスを展開していましたが、東京銀行の前身 横浜正金銀行が1919年7月にリオデジャネイロに邦銀初の支店を開設したのが最も古く、以来この地に90年以上の歴史を刻んで参りました。
 歴史を振り返ると、特に1980年代末から90年代前半にかけてのハイパー・インフレーションによる経済の混乱は、銀行の取り組み姿勢に大きな影響を与えました。結果、90年代後半から2009年にかけて断続的に営業基盤を縮小し、拠点数は8拠点から2拠点へ、従業員数は380人から128人へと大幅に減少しました。
 一度後ろ向きになったスタンスを変えるためには、長い時間を要しました。レアル・プラン以降に徐々に潮目が変わったことを遠く離れた日本にいる経営層に理解させることが出来ず、経営資源の再投入まで長く歯痒い時期が続きました。

 2010年に実質GDP成長率が24年振りの高水準を記録した頃になると、我々のなすべきことは明白でした。ブラジル起点で事業戦略見直しの機運を醸成するべく、ファクト・ファインディングや経済環境の調査・分析、詳細な事業計画の策定を行い、これらのレポーティングを通してブラジルにおけるビジネスチャンスを説明しました。
 新事業計画の策定に当たっては、「ブラジルの成長を如何に我々の事業に取り込んでいくか?」という点に重点を置きました。
 大きな挑戦の一つが、人材の現地化を進めることでした。少々乱暴な表現にはなるものの、従前は日本から派遣されてきた行員が「主」、現地スタッフが「従」の関係にあり、主要な管理職にはほぼ日本人が就いていました。しかしながら、このような経営スタイルを続けていたのではブラジルの成長を取り込んでいくことは出来ないと考え、現地スタッフに要職を用意し、マーケットに精通した優秀な人材を多数登用する方針に転換しました。本人の能力は当然のことながら、弊行の考え方を確りと共有してくれているかも重要なポイントでしたので、採用には時間をかけて慎重に人選しました。
 人材面での現地化を進める上では、日本からの派遣行員と現地スタッフの相互理解向上が重要な課題となります。この問題に対してはクロスカルチャー・トレーニングを導入し定期的に開催しています。ケース・スタディーを通して両国の文化の違いを理解出来る内容になっており、経営層だけでなく、中間管理職にも長期的に続けていく方針です。

クロスカルチャー・トレーニング


 人材以外の面でも、BNDES(国立経済社会開発銀行)の活用やブラジル系企業との取引の拡大、資源・インフラ関連ビジネスの拡大を重点施策に据えブラジル・パワーの取り込みを意識した他、マーケット業務の拡大・高度化や国内決済システムの機能改善も重点項目に設定しました。
 2011年6月に増資を行い上記の計画を推進してきた結果、アプローチ出来るお客さまならびに案件の範囲は格段に拡大し、また各種ソリューション提供の面でも地場銀行のレベルに大きく迫ることが出来ました。
 もう一つ大きな改革として取り上げたいのは、サンパウロ本店のリフォームおよびオフィスの増床を実施したことです。前回のリフォームから10年以上が経過し綺麗とは言い難かったオフィスが刷新され、従業員の士気は明らかに向上しました。また、新旧スタッフ交流の場としてコミュニケーション・スペースを新設する等の工夫も奏功し、現在は多数の新スタッフを迎えオフィス全体が活気に満ち溢れています。ブラジルへの再チャレンジに向けた環境整備が漸く完了しました。

 最後に、今後の展望に付いて簡単に触れさせて頂きます。先般、中南米地域の組織改正があり、私がブラジルから域内の拠点をサポートする体制に移行しました。当該地域には、ブラジルの他メキシコ、チリ、アルゼンチン、コロンビア、ペルーおよびベネズエラに拠点を有していますが、今後はこれらを一つの「面」と捉え、Team Latin Americaとして一体感を持って前進していきたいと思います。