会報『ブラジル特報』 2012年3月号掲載
エッセイ
                                         佐久間 圭輔(カーニバル研究家)



ネルソン・カバキーニョ

 ブラジルにルに「枯葉」というサンバの名曲があるのをご存知ですか。「熱帯の国」と歌われるブラジルに枯葉の歌、どうもしっくりしませんね。ネット社会の恩恵は素晴らしい。パソコンにfolhassacasと打込めば、エリス・レジーナやベッチ・カルバーリョ、作曲者ネルソン・カバキーニョ自身によるライブ録音まで、直接聴けるような時代なのだ。

 63才のネルソン・カバキーニョのあの独特の風貌やしわがれ声が、真冬の日本にも伝わってくる。騎馬隊のパトロールとしてマンゲイラを巡回するようになったネルソン・カバキーニョは、巨匠カルトーラと出会い、マンゲイラの人たちと親交を深めていく。枯葉を踏みながらマンゲイラのモーロを登る彼の心情が、理屈なしに伝わってくる。ギリェルメ・デ・ブリットとの共作として知られるサンバの名曲「枯葉」は、誰もが感じる人生の哀歓を歌っている。

「忠実なる息子永遠にマンゲイラ」

 毎年リオのカーニバルは、豪華絢爛、奇抜なアイディア、あっといわせるハイテクで、熾烈な戦いを繰広げている。昨年のマンゲイラのテーマは、生誕100年を祝うネルソン・カバキーニョの生涯だった。「忠実なる息子永遠にマンゲイラ」というこのテーマは、ネルソン・カバキーニョのことを知らなければ、分かる人は少ないだろうが、有名なロベルト・カルロスをテーマにしたベージャ・フロール、あっといわせる魔術で観客を魅了し続けるウニードス・ダ・チジュカに続いて、堂々の3位入賞を果たした。


 採点の内訳は、また驚きだった。審査対象10項目のうち、テーマの項目で、全審査員5人から最高点50点を獲得した。このことは、目先の華やかさにとらわれない、ブラジル人が大切にしている心を見た瞬間だった。

<ネルソン・カバキーニョやジャメロンたちに囲まれた私>


「マジア・ド・サンバ」の旅路
 2011年、カーニバルに向けて出発する直前、ネット上に驚くべき画面を発見した。ビオロンをかかえたネルソン・カバキーニョやジャメロンたちに囲まれた私が写っていた。トム・ジョビンなどMPBの名士たちも登場するこのサイト。マンゲイラの駅も見える。私が、ブラジルの、リオの、マンゲイラに生きていることを実感させる美しい画面だ。
 そこに「枯葉」の歌詞に続いて、私とマンゲイラとの出会い、ついに『マジア・ド・サンバ』という本が書かれるまでの経緯が綴られている。1997年以来、何度マンゲイラを訪ねたことだろう。もっとブラジルを知りたい。そんな気持ちで歩んできた年月を、これほどまでに理解してくれるブラジル人がいたことを知って、驚き、感動する。

<ジョルジュ・カスタニェイラ会長と筆者>


 リオに到着した私には、さらなる出会いが待っていた。浅草サンバカーニバルの代表者を紹介するために訪れたリエーザ(リオデジャネイロ・サンバ・スクール・リーグ)で、拙著『マジア・ド・サンバ』がジョルジュ・カスタニェイラ会長の手元に渡った。カーニバルのオープニングを明日に控えたこの日、会長は、日本語の『マジア・ド・サンバ』をパラパラとめくった。写真や横文字から、その内容を直感したのだろう。続く質問から、そのことがはっきりした。
 心が通じ合った喜び、もう一人の偉大な理解者を得た喜びがこみあげてきた。

 こうして、マンゲイラから生まれた『マジア・ド・サンバ』は、多くの方々に支えられて、故郷に帰っていった。拙著『もっと知りたいブラジルマジア・ド・サンバ知られざるリオのカーニバル』(発行所: アララ文庫)の入手は、以下へご連絡下さい。

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