会報『ブラジル特報』 2011年11月号掲載
日系企業シリーズ第15回

                                                 中川 雅博(YKK DO brASIL LTDA 社長)



弊社は今から39年前の1972年にブラジルに進出し、74年にソロカバ市に工場建設に着手、翌年5月より操業を開始しました。工場建設に関しては、原材料・部品の輸入が厳しく制限される事が予想されたため、可能な限り現地で調達することを考え、工場設備は織機から仕上げまでの各工程を揃え、さらにスライダーの製造も行うことにしました。

 工場が完成するまでの営業活動は、日本から製品を輸入して行う予定でしたが、1973年の石油ショックをきっかけとしてブラジルの国際収支が著しく悪化し、ファスナーの関税が35%から70%へ、さらに170%へと連続して引上げられたために、日本からの製品輸入は一度行われただけでした。
 1979年まではブラジルのファスナー市場は慢性的な品不足の状態でした。品質面で弊社ファスナーが優れていることが認められ、非常に好調な販売が続きました。しかし、80年からは価格競争が激化し厳しい経営状況となりましたが、経営方針を量産から収益重視に切替え、生産品目を付加価値の高い製品へ重点を移すなどして対応しました。その後、84年には10,880ヘクタール(約3,300万坪)の農場用地を取得して農牧事業をスタートし、現在はコーヒー事業、牧畜(肉牛、乳牛、養豚)事業を行っています。

 そして、1989年からはアルミ建材事業(AP事業)に着手しました。ご存知の方もおられると思いますが、弊社はファスナーや建材を作るための機械は社内の工機事業部で作っています。理由は部品にこそコアの価値が宿り、部品をきちっと作るから同じ機械になる。同じ機械で作るから世界中で同じ品質のファスナー・建材が作れ、世界中のお客様がYKKを信頼して購入して下さるという考えからきています。


YKKファスニング ソロカバ工場

 YKKブラジル社も、工機事業部を1990年よりソロカバでファスナー・建材工場に隣接する敷地で工場を完成させ稼動しています。ブラジル工機の主たる目的は輸入額の節減、機械部品在庫の削減にあります。

 1991年には輸入自由化政策の推進により、輸入関税が低減され、台湾や韓国からファスナー低価格品の輸入が急増しましたが、高付加価値商品・新アイテムの導入で対応し販売を伸ばしました。その後、ファスニング事業の中で1991年には面ファスナー「クイックロン」、1993年にはジーンズ釦・スナップ事業(S&B事業)への販売も開始しました。面ファスナー市場は、当時は地場国内メーカー4社が市場の90%を占有し、品質のあまり良くない商品を提供していました。弊社は品質上の優位性により、着実に販売領域を拡大しています。S&B事業もジーンズ市場にターゲットを絞り販売し、順調に売上げを伸ばしています。
 主流のファスナーは、ブラジルの伝統的産業であるジーンズ・靴業界を中心に多くのお客様に使って頂いています。今はジャケットなどの上物関係、非アパレル分野への販売増にも力を入れています。今後も品質・納期など、お客様のさらなる満足度アップを目指していきます。

 AP事業は2014年のワールドカップ、16年のオリンピックを控え、インフラ整備が急ピッチで進んでいること、現在、既に購買意欲の高い若者やC層と呼ばれる中間所得者層による不動産ブームは始まっていますが、14年には中〜高所得者層の人口が1億5千万人に達すると推定されることから、今後大きく期待する事業部です。
 来年に弊社は設立40周年を迎えることになりますが、これからも衣食住の3部門でブラジル経済発展に貢献できるように努めて参ります。