会報『ブラジル特報』 2010年7月号掲載
進出企業シリーズ第7回

           三好 康敦(Primotech21商工代表取締役社長)


2006年6月にブラジルが日本の放送方式を採用してからかれこれ4年。この画期的かつ前代未聞の出来事について、当時ブラジルが本当に放送を立ち上げられるか? この特有な方式を採用した日本とブラジルが世界で孤立するのでは? の懸念の声を聞いたのは未だ記憶に新しい。

 そして2007年12月には当初の予定どおりに放送開始、地方展開についても僅か2年半で現在国民の40%超が地上波デジタル受信環境にある等、驚くべく実績である。さらに、今では南米・中米でブラジルを含む8カ国が採用・放送開始、残る南米・中米・カリブはもちろんのこと、直近ではアフリカ展開を日本ブラジル共同で推進するなど、孤立どころか南半球を制覇する勢いで展開が進んでいます。

 発展途上の地域では、パソコンとブロードバンドや携帯メールないしインターネットアクセスはごく限られた人達が使いこなしている高価な道具なので、テレビは一般家庭内において重要な娯楽と情報のソースです。そしてこの生活に深く浸透しているテレビ放送の近代化に、日本が開発した技術が欧米との争いで勝ち取ったのは大きな出来事どころか中長期展望ではやがて『日本発の南米・中米の社会への貢献』ともいわれる様に発展するかと思います。

 欧州の旧植民地、欧米文化に染まっている地域でこれだけ日本ブラジル方式(日本のオリジナルにブラジルが近代化した方式)が採用されているのは、過去からの流れを変えて長年の歴史を刷新したい行為で、アフリカでも同じ様な動きのお陰で日本ブラジル方式が優勢候補になりつつあると伺っております。

 ブラジルをきっかけに南半球に波及しつつある日本ブラジル放送方式、これは日本とブラジルのいろいろな温度差・文化の違いを経て上手く纏まった放送規格ですが、両国の努力で広がりを見せています。

 この地デジ市場、民間企業の動きでは、主要放送局の設備は日本メーカーが方式採用直後に上手く受注したのですが、欧米やブラジルメーカーが随時対応製品を展開してきて脅威に。受信機の市場でも、日本メーカー品は市販されていますが、高いシェアを獲得したのは皮肉にも非日系メーカー、韓国勢を筆頭に欧州・中国メーカーが地デジチューナー内臓テレビやセット・トップ・ボックスを展開し、日本方式特有のワンセグ携帯も韓国メーカーが端末市場でリードする結果、方式は日本規格でも日本メーカーは大きな果実を得られていないのが実状です。

 弊社はアルプス電気から6年前に事業継承させて頂き、以後日本メーカーの特約店・代理店を務めさせて頂いています。ブラジルで地デジ採用の働き掛けにも積極参画し、方式決定後に新規取引先と契約も締結でき、日本特有の技術の展開を先行して事業展開できました。そしてこれからさらなる数量増加が見込める普及期に突入、価格も欧米・地場競合の参入で下がり、円高・Made in Japanの影響で非常に厳しい中、製品コンセプトの見直し(簡素化)等をブラジルの研究開発機関の活用を含めての展開を推進中です。

 今年の南ア・サッカーワールドカップ、そして2014年のブラジルでの開催に向けては「HD(高解像度)」、データー放送等は視聴者の家庭内の娯楽道具として大きく拡大が期待される有望な市場です。これを機会に、日本とブラジルの企業が相互の力と相違点を良く認識した上で上手く協力して、地デジ市場で成功して重要な位置を獲得できればと考える次第です。