会報『ブラジル特報』 2011年1月号掲載
在日ブラジル商業会議所会員企業の紹介(第7回)

                             ブラステル株式会社


ブラステル株式会社は1996年春に産声を上げ、12月に台東区で有限会社として設立登記されました。共に創業者で代表を務める田辺淳治、川合健司の二人は80年代に来日し、それぞれ会社勤務を経てすでに起業の経験もしていましたが、国際電話のビジネスに商機を見出して共同で設立したのが、ブラステルというわけです。ブラジル向けの電話事業ということで社名が決まりました。

 80年代の円高以降、在日外国人は増えてきていましたが、特に90年に入管法が改正されたことから、日系ブラジル人の来日が急増しました。当時、日本からブラジルへの通話は1分360円もしましたが、それでも公衆電話がふさがったままというのが、当時の風物詩になったわけです。

 折から、米国からは通信市場や金融市場の開放をせまられており、国際電話の業界にも変化が起き始めていました。そのような背景で登場したのが、いわゆる「コールバックシステム」といわれる国際電話サービスです。国際電話の発信地として日本よりも圧倒的に料金が安かった米国に電話をかけ、一旦切ります。すると米国側のシステムからコールバックがあり、そのガイダンスに従ってブラジルの電話番号を入力すると、ブラジルと通話できるというものです。こうして国際電話の価格破壊がスタートしたわけです。

 ブラステルは当初このコールバック方式で国際電話サービスに参入しましたが、その後間もなく規制緩和が進み、大手から回線を借りて国内から発信する形態でのサービスが認められることになりました。しかし当時は後払いのサービスのみを行っており、代金回収をスムーズに行うために様々な工夫が必要でした。その一方で大手通信会社に対する回線使用料の支払いは前払いが多かったため、資金繰りが成長の足かせとなっていました。 当社が大きく飛躍したのは、2000年2月に、業界初のリチャージャブル方式の国際電話カードをリリースしてからです。すでに独立系の競合他社がたくさん誕生していましたが、その多くが売り切り型の粗製濫造プリペイドカードで値引き合戦を繰り広げる中、当社はコンビニでのリアルタイム収納を活用して定価販売を維持しつつ確実に前払いで代金を回収する一方、通話品質とカスタマーサービスでは一切妥協をしない真摯な姿勢を貫きました。通話先相手国も順調に増やし、最終的には240以上の国と地域に対する通話ニーズを、20以上の言語によるカスタマーサービスで対応できる体制を整えました。

 2002年には、一般第二種通信事業者(国際電話会社)として初めて、NTT東日本や、その他の携帯電話事業者などの主要なキャリアによって管理される日本のPSTN(公衆交換電話網)との相互接続を実現し、同年9月には事業者識別番号0091-20、21を取得しました。その間もカード名は一貫して「Brastel Smart Phonecard」(現:ブラステルカード)ひとつで勝負し、そのブランド価値を上げることで、お客様からの信頼を頂く努力を地道に重ねてきました。その結果、知名度は向上し、年商も2004、5年には100億円を超えるまでになり、独立系国際電話事業者で№1の地位を占めるに至りました。

 しかしその後、経済の低迷を背景としながら、PCをベースとするIP電話や携帯電話での国際ショートメールの普及、そして通信の定額制への移行の流れなど、この業界にも厳しい変革の時代がやってきています。そのような環境変化の中で事業の多角化を進めるため、当社ではここ数年、法人向けのIP電話に取り組んできました。様々な通信がIP化の方向に向かう中、従来型の音声電話のみで守りに入るのではなく、むしろ評価が厳しい法人分野で、未成熟の技術をもって市場を開拓していくことを決断したわけです。

 実際にサービスを開始してみると、インターネットという開かれたネットワークの中で従来の音声電話では当たり前だった信頼性と品質を維持していくことは、技術的にも想像以上に困難であることが分かってきました。しかし数年に渡る経験をもとにブレークスルーを繰り返した結果、最近になって信頼性を大幅に高めた製品の開発にこぎつけることができました。

 現在最も力を入れている法人向けIP電話サービス“Basix(ベーシックス)”の大きな特徴は、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)方式を採用した結果、お客様はPBX(社内交換機)を購入する必要がなくなったことです。機器として準備するのは、実際に利用する数の電話機だけです。これをLANに接続するだけで、本社内はもちろん、拠点間の通話をすべて内線として利用できるわけです。この手軽さと柔軟性により、立ち上げたばかりの企業、伸び盛りの企業などで、利用台数の変化やレイアウト変更、さらには事務所の移転があっても柔軟に対応できるようになっています。   もちろん、当社ならではのメリットとして、国際電話も簡単に低料金で利用できる上、海外拠点も内線化できるようになっています。また、頻繁に外出する方々のために、出先からでもお手元の携帯電話を事務所内の電話と同じように使える機能を備えています。その設定の切り替えも、お客様自身がWEB上で簡単にできるようなしくみを構築しました。 その先に見えてきたのは、個人顧客、法人顧客を問わず、また固定電話、携帯電話などの端末にとらわれず、また既存の通信関連事業者の垣根にもこだわらず、自由でフレキシブルな通信手段の創造を追及していく、まったく新しい通信ソリューション提供企業としてのあり方です。

売り込み中の法人向けクラウド型IP電話サービス“Basix”

 これらのサービスを支える技術スタッフは日本国内、ブラジルおよびフィリピンに分散して業務を遂行しています。また顧客サービスについては、上記に加えさらに数カ国に分散配置したコールセンターが中心になって行う体制となっています。各国でブロードバンド環境が整うにつれ、コールセンター、テクニカルセンターの設置場所に制約はなくなり、国境を越え適材を適所で雇用できる体制が構築できるようになったわけです。 一方、本社は2004年に台東区から墨田区に移転しました。国際的な展開図るIT企業というイメージとはうらはらに、屋形船が行き交い、江戸情緒が漂う隅田川のほとりに本社社屋を構えています。夏の隅田川花火大会の夜には、9階バルコニーはビールとシュラスコを楽しむ着物姿の外国人社員でいっぱいになります。

隅田川の畔に建つブラステル本社ビル

 最後になりますが、当社はその出自からブラジル文化の日本への紹介にかねてから強い関心も持っており、電話事業の広報・宣伝のかたわら、文化事業にも力を入れてきました。その結果が、2005年秋に開催されたブラジル映画祭として結実しました。これを機に、文化事業を行う部門を子会社として独立させることとし、Tupiniquim Entertainment株式会社を設立しました。現在映画祭は毎年恒例となっており、文部科学省にもご理解、ご支援を頂くまでになっています。また、優れたアーティストをブラジルから招聘しコンサートやリサイタルを行うほか、CDやDVDの販売なども行う音楽事業にも力を入れています。今後は国内のみならず、近隣のアジア諸国を中心にブラジル文化の普及と理解を進めていきたいと考えています。